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居心地の悪い怒りを吐き出す僕に、姉の言葉は、理解できなくて聞いてしまう。
「怖い、慣れる? 姉さん、いったい……」
「あぁ、やっぱり姉さん、嫌われてるのね。辛いけれど……でも、二度目だから、少し、慣れられたかも」
「……どういう、ことだい」
「嘘じゃないあなたが、二度、見れたってことだから。嬉しいわ」
姉の言葉で、引っかかった言葉を、口にする。
「にど……め?」
唇が震えながら、聞き返す。
――二度目なら、繰り返したのなら、同じ記憶があっても不思議じゃない?
「そんなこと、バカにしてるのか!?」
「あぁ、そうそう。あの子だったら、そういうわ。うん、そう言う子だった」
「姉さん……!」
頭がおかしくなりそうだった。
もしくは、頭がおかしいのは、眼の前の姉の方なのか。
不安に声を荒らげる僕に、姉は薄い三日月に似た穏やかな笑みを浮かべながら、話しかけてくる。
「言ったでしょう? 夢は繰り返せるから、良いわねって」
「夢……」「あなたは、夢。わたしの、夢。あの日の記憶と、ありったけのデータから造られた、あの子の亡骸。そこから生まれた、夢の君」
「なにを言っているのか、わからないって……! 」
激高して、もう、眼の前の狂った女の口を止めようとして。
「あなたは、わたしと別れたあの日を、少しズレて繰り返す……最後の弟。そう、それがあなた」
――その言葉が、決定打となった。
「死んだ弟の、夢。仮想空間の、ありえたかもしれない、あの子の一日。そのための……あなた、なの」
姉の言葉に、僕は、呆然として呟く。
「……なんだよ、それ」
「あれから、時間が経ってるの。だから、夢の中なら、ずっとあなたと過ごした日にいられるようになったの」
「じゃあ、『僕』は……誰なんだ?」
「わたしにとっては……あなたはあの日の、弟のままよ?」
すっと撫でてくる、女の手。
「でも、そうね。怖いわよね。だけれど、大丈夫。わかるように、同じように、ならないようにプログラムしているから」
誰だ、この女は。
は虫類にさわられたような気味の悪さ。
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