5人が本棚に入れています
本棚に追加
――そして、なぜだ。
事故現場でも、病院でも、地獄でもなく、ただ自分の部屋の光景が広がっているのは。
「……うそ、だろ?」
白い天井を眺めながら、僕は呆然と呟く。
「あなたは、もう、死ぬことはないわ」
声のした方へ、ゆっくりと視線を向ける。
そこには、朝食の準備をしているはずの、姉と同じ女性の姿があった。
「インプットしたデータから再生される、ちょっとだけ違う、あの日のあなた」
「だって、それは仕方ない。同じだけなら、VRデータやビデオファイルの再生だけで済むのだから」
「わたしは、夢を見たいの。あの日のあなたの、でもあなたがしなかった、なのにあなたでしかない選択の日々を」
「だから、永遠にこの揺りかごの中で、わたしと一緒に過ごしましょう?」
逃れられない。
それを知った、僕は。
「……えっ?」
眼を見開く姉を、横目に見ながら。
窓枠のガラスを、突き破った。
全身に走った切り傷の痛みと、瞬く間に全身へとかけめぐったアスファルトの衝撃。
考える意識を、それらに奪われながら。
――この悪夢が終わることを、望んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!