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――最後に見たのは、意識を食いつぶすような、白い光の渦だった。
焼き尽くすような光が過ぎて、眼を開く。
カメラのファインダーが動くような、瞼の動き。
でも、意識はまだ、白い光の渦に飲み込まれたまま。
(……おかしい)
目の前にあるのは、病院の白い壁でも、どこかの見知らぬ別荘でもない。
ただ、昨日まで住んでいた、家族に割り当ててもらった、自分の部屋という空間だった。
「うっ……」
これは夢なのか。それとも、昨日あったことが、夢だったのか。
――僕は、車の事故に巻き込まれ、死んでしまったはずなのに。
「死んだ?」
それすらも、あの一瞬では判別がつくはずがないものだ。
ベッドの上で、手を動かす。意識しないと、まだ夢の中のような、自分の手足。
……本当は、誰か、別の身体なんじゃないか。作り物なんじゃないか。夢の中にいるんじゃないか。そう、想うくらい。
ふわっとした気分は抜けなくて、部屋を見るけれど、やっぱりまだ僕の部屋だ。「鏡……」
タンスにかけてある鏡に向かって、ベッドから降りる。
近づいて見た、鏡に映る姿。それは、昨日までの記憶にある、僕の姿と同じだった。
――記憶にある、というのが、他人のような心地でなければ。
部屋のドアを開けて外に出ると、空気が変わった。
――匂いがする。焼けたパンと、卵の匂い。
――音がする。水が食器に当たるような音と、なにかが焼かれているような熱の音。
――そして、かすかに聞こえる、人の声。嬉しそうな、女性の声。
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