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「……」
――姉は、口を閉ざしている。こんな時の姉は、なにか、している。僕の記憶が、そう訴える。
姉は、学校でも美人で、勉強もできて、人付き合いも達者な人だ。僕とは違い、みなに憧れられたり、嫉妬されたりしていた。
そんな姉は、なぜか……僕のことが、よく気になっていたみたいだ。
近所でのつきあいも、学校での人間関係も、気になる女性との距離感も、勉強の進め方も。
知らないうちに、レールの上を歩いている。
「牽かれる……?」
息を吐くようにささやかれた、姉の一言。
「そうだよ。僕はもう、耐えられなかった。だから、出て行ったんだ」
姉の干渉は、両親が居なくなってから、ますますひどくなった。
食事の時間や外出の時間、考え方や話し方、お金の管理や自分の部屋の整理にまで、手を出してくるようになった。
イヤだと言っても、姉は笑っていた。聞く耳も持ちながら、その言葉は、違う意味にとらえているようだった。 僕はイヤになり、友達の家などに外泊するようになったが……その友達の様子がおかしくなることも増えてしまったため、その手も使えなくなっていた。
そんな、干渉される日々にストレスがたまっていた、そんなある日のことだったのだ。
「逃げ出すなんて、悪い子ね」
愛と憎悪の、混じる瞳。
口元は笑っているのに、眼は、ぜんぜん違う。
「姉さんが、僕のプライヴェートに、干渉しすぎるから」
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