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「いや……」
だけど
その一言が出てこない。
蒸し焼きにされかけてなお
舞い戻ってきた玉虫と同じだ。
僕は完全に彼に魅了され
常識レベルの言葉さえ失っていた。
「初めてかい?」
「……何?」
「あの手のキスは――初めてかと聞いたんだ」
そんなことなど露知らず。
鏡越しアンジュは面白がるように僕を笑う。
「初めて……だよ」
すっかり乾いた水着の上に
ふんわり羽織ったリネンのシャツが
「普通ないよ。あんなの……」
一層彼の美しさを際立たせ
僕の胸を高鳴らせる。
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