第2章 1分間

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「いや……」 だけど その一言が出てこない。 蒸し焼きにされかけてなお 舞い戻ってきた玉虫と同じだ。 僕は完全に彼に魅了され 常識レベルの言葉さえ失っていた。 「初めてかい?」 「……何?」 「あの手のキスは――初めてかと聞いたんだ」 そんなことなど露知らず。 鏡越しアンジュは面白がるように僕を笑う。 「初めて……だよ」 すっかり乾いた水着の上に ふんわり羽織ったリネンのシャツが 「普通ないよ。あんなの……」 一層彼の美しさを際立たせ 僕の胸を高鳴らせる。
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