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千紘は雅文の妹でひとまわりも下だ。
だからか、目に入れても痛くないってくらいの溺愛っぷりで、
中学生になって部活で遅くなったり、休みの日に遊ぶ友達の中に時々男が混ざりだしたのを知ってからは、
“スモールライトでちっちゃくしたら、ずっとポケットに入れておけるのに…”と、本気か冗談かわからない顔で言っていたくらいだ。
一人っ子のカナは本当の妹のように可愛がり…
まぁ、今となっちゃ本当に妹なったわけだけど…
オレも、そんな二人と同様に、家族みたいに思っていた。
その妹の千紘は、
兄貴の過剰な愛情をウザがることなく受けとめてすくすくと成長し、キャッキャと騒ぐようなことのあまりない、どちらかというとおとなしめな女の子に育った。
そんな千紘が、夜遊びどころか無断で外泊なんて、雅文だけじゃなくオレも信じられない訳で……
『事件に巻き込まれたのかも…』
放っておくと捜索願いでも出しかねないくらいの雅文。
よくないことばかりグルグルと考えているであろうバカ兄貴にかけてやる言葉を探して、
「まぁ…ちょっと待てって」
そう言いながら、煙草の箱に手を伸ばした。
「女の子の友達んちにでも行ったのかもよ?ほら、仲のいい子いたじゃん?何ちゃんだっけ…」
手に取った箱はカラッポだった。
雅文を落ち着かせる言葉を選びながら、買い置きしてあるはずの煙草を探すため、テレビの下の引き出しや昨日着ていたスーツのポケットをまさぐった。
『でもね!でもね!千紘は結婚式用の服着てたんだよ?そんな格好のまんまで友達んちに行くー??』
「…そうだねー…」
あっれー?
確かこのポケットに新品のやつ入れておいたんだけどな……
こりゃ買いにいかねぇとかな…
カチャ…
背後の、寝室のドアが開いた気配がした。
オレの電話の声で目が覚めてしまったんだろうか。
起こして悪かったな…という気持ちと、
こんなカタチで“はじめまして”ってのもどうなのよ…というバツの悪い気持ちで、
ゆっくりと振り返ると………。
「その電話、お兄ちゃんなら“夜には帰る”って言っといて?」
「…………」
『…オトコと一緒かな…だとしたら、ソイツ見つけてまずは爪を…』
「……」
『ねぇニッシー?聞いてる??』
き、聞いて…ます……
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