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『ニッシー?ニッシー?』
何度もオレを呼ぶ雅文と、
「新品の煙草なら、昨日の夜に封を開けてたよ?………“和”が自分で…」
耳元で甘ったるい声を出す千紘…。
その声と、耳にかかる湿っぽい吐息に、思わず身震いしてしまう。
一度だって“和”なんて呼んだことなんかなかった。
西森さんところの“お兄ちゃん”と、雅文やカナが呼ぶ“ニッシー”が混ざって、オレをずっと“にぃに”って呼んでたのに…。
スマホを反対の耳にあてたまま、視線だけを千紘に向けた。
呆然としているオレのことがおかしくて堪らない…という顔で、
「“和”って呼べって自分で言ったじゃない?昨日の、よ・る・に♪」
「…ブホッ!」
声を殺して笑いながら、“シャワーしてくるね♪”と浴室へと消えていった。
『ニッシー?大丈夫?』
「…ご、ごめんごめん……あの…その、起きちゃったんだよね…えっと…」
『あぁ!彼女が?』
「か、彼女なんかじゃねぇわ!」
『へっ?』
雅文が言う“彼女”なんて言葉に反応して、つい大きな声で否定してしまった。
けれど、よくよく考えると、
【一夜を過した相手≠彼女】なんて知ったら、
“まだそーゆーことしてんの!”って怒られそうだ。
じゃあ、
【一夜を過ごした相手=彼女】ってことにしておく?
そーすると、
【彼女=千紘】
となるわな…。
するってーと、
“いつから付き合ってたのか?何で黙ってたのか?”と、怒りだすだろ?
ってことは、
【一夜を過ごした相手=千紘】、
【千紘+えっち=惚れちゃった】
ってことでオールオッケーじゃん!
………んな訳ねぇよな。
ダメだ。
詰んだ。
こんなこと、ぜってぇ言えねぇよ……。
「あ、いや、ちょいコッチの事情がね、あってさ…ははは」
『ふーーん。よくわかんないけど、遊んでばっかじゃダメだよ?』
「うんうん。大丈夫大丈夫!で、千紘だけどさ、まぁあれだよ、夜には帰るんじゃないかな、うん。そんな気がするな、オレ」
『うーん…。心配は心配だけど、そうだよね?大丈夫だよね?』
「大丈夫だって!もしオレの方に連絡あったら知らせるし」
『うん!よろしくね!』
話をどうにか軌道修正して、電話も終わりに出来た。
まずは……
どうしましょうかね、ホントに。
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