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せーっかくお気に入りのTシャツを、“ヨレヨレ”だの“ダサっ”だのと言われたから泣きたいのか?
否定してたけど、でも雅文同様に“まだ子供だ”と思ってて、おとなしくてちょい人見知りチックな子と思ってたのに、“煙草”に“色気”にと、雅文もオレも知らない顔を見てしまったから、
だから泣きたいのか?
それとも、
カナの結婚で大打撃を喰らってたはずのオレが、たった一晩“ご一緒”しただけで抱いた恋心を持ってしまったその相手が雅文の妹だからなのか?
いや…。
燻り出した気持ちはオレだけのモノで、
当の本人は“恋”だの何だのとは思ってなくて、“外泊ついでにチョット味見”くらいに思ってんじゃないかと思ってしまうほど、千紘からのリアクションがなーんにもないから、
だから泣きたいのかもしれない…。
何も、
本当になんにも言ってもらえないから……かもしれない。
かと言って、
どうしてこうなったのかをはっきりさせたらさせたで、“親友の妹だし”とか何とか理由をつけて、
“ま、お互い…大人っつーことで…その、なんだ…今回のコトは…他言無用ってことで…ね?”
とでも言い出してしまいそうな自分もいるし。
よく……わかんねぇよ…。
ただ1つ言えることは、
オレは、
まだ“名前もわからないままの女の子”だったときのあの感覚を、
“無かったこと”にはしたくない…
ってことだ。
「難しい顔して視線がちょっとボーッとしてる時って、なんか色っぽいよね」
いつの間にか着替えを済ませて部屋から出てきていた千紘はそう言うと、
オレの隣に座り込み、スッと手を伸ばしてまたカプリを取り上げた。
いい歳したオレを“色っぽい”だなんて言うから、どう反応していいか躊躇ってしまい、
「吸いすぎ…」
と心にもない言葉が口からポロリと出た。
「何よ、自分だって吸うくせに」
と、オレを流し目で睨んで、白い煙をふーっと横に吐き出した。
「何…考えてた?」
やっぱり千紘は淡々とした口調でオレを覗きこむ。
そんな、“私、平気だけど?”みたいな、悟りきった顔しないでくれよ…。
もう少しだけでいいから、“お兄ちゃんに何て言おうかな”なんて、恥じらってくれよ。
「千紘…」
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