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「待て待て!ストップ!」
そう声がかかって、ようやく我に帰った。
「頼、むよ……オレ、もうすぐ、32なの!酒、飲んで走れる、ほど、若く、ねぇんだから」
「ごめ……ん」
変な女から連れ出そうと、どこに行きたいかも定まらずに、にぃにの腕を掴んだままで夢中で歩いていた。
にぃには、
“つか、お前の、方じゃん、必死、なのは”と、言葉の途中で短く呼吸をしてて、ちょっと笑えた。
「ごめ……(笑)大丈夫?」
手を離し、息切れしてるにぃにの背中を軽く擦ると、
「そんな年寄りでもねぇわ!」
丸まった背中をわざとらしくシャキーンと伸ばしてみせた。
「雅文だろ?」
「え?」
「雅文に頼まれて、オレがフラフラ~っと女にくっついていったりしないように見張ってたんだろ?」
急にお兄ちゃんの名前が出てきたことに一瞬ポカンとした。
そしてその次に、
変な女に連れて行かれないように間に割り込んだことが、
にぃにの“女癖”を心配してたお兄ちゃんが指示したことだと思ってるということを言ってるんだとわかり、
「違うよ!」
全力で否定した。
けれど、その全力な否定が余計にそう思わせてしまったみたいで、
「強力なボディガードを送り込んだよな……」
にぃには、鬱陶しそうに前髪を指で払い、この時期には珍しく星の見える空を仰いだ。
「………」
もう一度“本当に違うんだよ”と言おうとしたけど、
夜空を見上げるその横顔の先に、
星ではなく“カナさん”がいるような気がして、
声にならなかった。
「ったく、今日くらいは察してくれよ」
にぃにの、カナさんへの想いは直接聞いたことはなかった。
けれど、こんな風に匂わせた言葉を聞いてしまうと、胸がきゅうっと悲鳴を上げる。
それを隠すように、
「もう人妻だよ…やめてよね、身内の昼顔なんて、ヤだからね?」
と、ふざけて言ってみた。
にぃには、私が勘づいていたことをたった今知ったようで、
薄い茶色の瞳を大きく開き、一瞬だけ驚いた顔をして、すぐにいつもみたいに口角を上げて細く笑った。
「酔い…冷めちったな」
「飲み直すんなら付き合うけど?」
「お前にそう言われるとはね」
「いいじゃん。行こ?」
「よし!行くか!」
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