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“飲み直すんなら付き合う”とは言ってみたものの、私が知ってるのは安くてごちゃごちゃっとしたチェーン店の居酒屋くらい。
こういう夜にピッタリ合うような雰囲気のいいお店なんて知らなくて…。
「オレのいきつけの店でもいいか?」
「うん……」
結局、にぃにの後ろをトボトボとついて行った。
着いたお店は、私にはまだその扉を開けるにはかなり勇気が必要な構え。
にぃには、挙動不信な私なんか全くお構い無しで、何の躊躇もなく重そうな扉に手をかけ“うーっす”と入っていく。
そんなにぃにが、悔しいけど、いつもよりも大人の男の人に見えた。
左手にカウンターがある、縦に細長い造りで、奥行きはそれほどない、こじんまりとしたバーだった。
カウンターの向こう側のマスターと親しげに二言三言会話を交わすと、
「お前、そっちね」
カウンターの一番端を指で差し、私を壁際に追いやって、慣れたように私の左側に腰かけた。
私は壁とにぃにに挟まれるような状態で、バー特有のハイチェアーに怖々と腰を下ろした。
左手で頬杖をつき、格好で私の顔を覗きこむと、
「こーゆーとこ初めてなんだろ?」
若干緊張している私を面白がった。
「たまに…来るかな」
「嘘つけ。店に入る時点でいっぱいいっぱいな顔だったくせに」
“くくく…(笑)”と、独特な笑い方を繰り返した。
“嘘つけ”?
お店に入る時に私のことなんか見てなかったじゃん!
それとも、
にぃにには全部お見通し…なの?
だとしたら、私の気持ちにも気づいてるの?
「お前…そんなやつだったんだな。知らなかったわ」
私を見ては右手で口元を押さえて笑うにぃにの後頭部を、マスターがツン…と突っついた。
「ッテ!」
「ほら、和!何にすんだ?」
「あー…うん…」
マスターの方を見向きもせずカウンターに肘を付けたまま、
「千紘は?何飲む?」
からかっていたトーンとは真逆の柔らかい声と、緩く弧を描いた二重の目で、優しく私に問いかけた。
それはまるで、私がにぃにの恋人にでもなったように錯覚してしまうから、頬杖をついて、ぷにっと盛り上がったにぃにの白いほっぺたでさえ、私にはかっこよく見えてしまうんだ。
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