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「ごめん」
気まずい空気は私のせいだ。
にぃにがポケットから取り出した煙草に火をつけたのを見て、私もバッグから煙草を取り出し、同じように火をつけた。
「…知らなかったわ」
「え?」
「お前が…」
「あ、煙草?家じゃ吸わないし…」
「いや……そうじゃなくてさ…」
にぃには、ふぅ…と小さく煙を吐き出した。
言おうかどうしようか…と迷っているかのようで、カクテルグラスの細長い脚の部分を、爪を短く切り揃えた指が何度も往復した。
「お前が煙草を吸うことも、だけどね?……さっきみたいに大きな声を出すこともそうだし…。それに……」
フィルターをくわえた薄い唇から漏れた、
「お前がオレの気持ちを知っていたってことも…さ」
知りたかったような、けれどやっぱり聞きたくなかった言葉に、目頭がジワッと熱くなってくる。
でも今は、泣いてなんかいられない。
今夜は、傷ついたにぃにを癒すんだって決めてたんだから…。
例え私の気持ちも報われることがなかったとしても……。
「さっき言われて…ドキッとしたよ、マジで」
「……わかるよ」
「オレ、わかりやすかった?」
「ううん。キッチリ隠せてたんじゃない?少なくとも、お兄ちゃんたちには気づかれてないでしょ」
「そっか…ならいいけど…」
「叶わない…振り向いてもらえない相手に恋をしてる者同士…だもん。痛いほど、わかる」
「そっか。って、え?お前も…?」
「わかってないでしょ?」
「え?」
「自分のことだ…ってこと」
「………」
驚いて声も出ないにぃに…。
そうだよね…。
ずーっとカナさんだけを見てきたんだもんね。
私の気持ちなんか、気づかなかったよね。
にぃにの沈黙が苦しくて、
もしも、次に発する言葉が“ごめん”とか“ありがと、でもね”とかそんな言葉だったら…と思うと怖くて、
「あ、すみません!私も、これと同じものをください!」
空気を変えるように、マスターに声をかけた。
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