156人が本棚に入れています
本棚に追加
数日前に目撃した、
真っ赤な薔薇の花束を抱えて走る男。
紅潮したあの頬は、
その運動のせいか、
誰かを想ってなのか。
いずれにせよ、心にちくんと刺さったその光景が頭から離れなくて、
柄にもなくオレは勇気を出して知り合いの花屋の前に立っていた。
「どうします?」
しびれを切らして店主がオレに声をかけた。
それもそうだ。
立ち尽くしたまま、数分間。
ラーメンなら食べ頃なはず。
「見繕いましょうか?」
そうか。
そういう手もあるのか。
「えっ!あ、じゃあ」
渡りに船、と胸を撫で下ろそうとしたオレに、
「お相手は?」
「は、い?」
「どなたへのプレゼントですか?」
畳みかけるように、
「お相手のお好きなお花や色と、ご予算伺っても?」
襲いかかってくる。
生憎と、こういう場面をスマートにやり過ごすスペックがないオレは、
「値段は、まあ、上限なしでいいんで」
それだけ言うのにさえ喉がカラカラだ。
「あと、好きな花とか、色、とか、わからないんですが」
「そうですか…」
そんなことすら知らず、オレはあいつに花なんて買おうとしてたのか?
というか、世の男性は知っているものなのか?
自分が今しようとしていることが場違いに思えてくる。
やっぱり帰ろうか、と過ぎった時、
「では、どんな方ですか?雰囲気とか、趣味などは?」
店主がオレにそう尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!