dozen rose

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数日前に目撃した、 真っ赤な薔薇の花束を抱えて走る男。 紅潮したあの頬は、 その運動のせいか、 誰かを想ってなのか。 いずれにせよ、心にちくんと刺さったその光景が頭から離れなくて、 柄にもなくオレは勇気を出して知り合いの花屋の前に立っていた。 「どうします?」 しびれを切らして店主がオレに声をかけた。 それもそうだ。 立ち尽くしたまま、数分間。 ラーメンなら食べ頃なはず。 「見繕いましょうか?」 そうか。 そういう手もあるのか。 「えっ!あ、じゃあ」 渡りに船、と胸を撫で下ろそうとしたオレに、 「お相手は?」 「は、い?」 「どなたへのプレゼントですか?」 畳みかけるように、 「お相手のお好きなお花や色と、ご予算伺っても?」 襲いかかってくる。 生憎と、こういう場面をスマートにやり過ごすスペックがないオレは、 「値段は、まあ、上限なしでいいんで」 それだけ言うのにさえ喉がカラカラだ。 「あと、好きな花とか、色、とか、わからないんですが」 「そうですか…」 そんなことすら知らず、オレはあいつに花なんて買おうとしてたのか? というか、世の男性は知っているものなのか? 自分が今しようとしていることが場違いに思えてくる。 やっぱり帰ろうか、と過ぎった時、 「では、どんな方ですか?雰囲気とか、趣味などは?」 店主がオレにそう尋ねた。
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