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自宅に帰ると、彼女は家主よりも先に寛いでいた。
突き出すように渡したその花束を、
からかうでも茶化すでもない彼女。
しげしげとそれとオレを交互に眺めてから、オレの好きな方の笑顔に変わる。
「もらっていいの?」
「あげるために買ったんだから」
「そか。では素直にありがとうございます」
「いえいえ」
「ね、久保田さん?」
「はいよ」
「これ、自分で選んだ?」
「えっ?(笑)」
「やっぱり(笑)」
「やっぱりってどーゆー意味よ?」
「だって、この花束……って」
何か意味でもあんの?と聞く間もなく、テーブルにそっと花束を置いてから彼女はオレの身体に巻き付いた。
「ぅおっ?な、何なに?こんな効果があるわけ?(笑)花束ってすげぇなー!」
胸元に顔を擦りつけるように喜びを顕にする彼女をハイハイとあしらいながら、
テーブルに置きかけたスマホでググってみると、
そこには、めちゃめちゃ恥ずかしい言葉が、これでもかと並べられていた。
「……………大好きっ」
「……ハイハイ(笑)」
「照れちゃって」
「そーね、そうしときましょ」
「自分で選んだ?」
「そーね、そういうことにしときましょ」
「えへへ」
こいつがどんな女の子かなんていくらでも言えるよ。
12個の言葉は、
たぶん足りないくらいだ。
オレの2本の腕がこれからも抱えたいものは、
オレがオレでいられるこの場所と、
テーブルに置いたままにしている花を気にしてオレから逃げ出そうとする目の前のアナタ。
「こら、待て(笑)」
「お水……あげないと」
「オレが、先……」
「………っ」
12本のバラは、欧米では「ダーズンローズ/dozen rose」と言い、こんな意味が込められている
感謝
誠実
幸福
信頼
希望
愛情
情熱
真実
尊敬
栄光
努力
永遠
*完*
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