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私の職場は、小さな美容院。
スタイリングチェアーは2台。
シャンプー台は1台。
この店の一番の働き者は、店長の松井潤さんでも二番手の高瀬虹汰くんでも、もちろん私でもなく、一年中付けっぱのアロマ加湿器だ。
季節感を出した唯一のインテリアは、
入口すぐのレジ脇のデコレーションだけ。
小さいクリスマスツリーから、ミニサイズの門松に変わり、今はピンクと赤のハートが重なり合うイラストのポストカードが小さいイーゼルに飾られている。
「10時までな!過ぎたら罰金!」
「はーい!」
「コータは?帰んないの?」
「俺…コイツ見張ってる」
「見張ってる…って(笑)先に帰っていいよ?私なら一人で平気……」
「アホか!お前の心配じゃねぇわ!店の中荒らされないかっつー心配してんの!」
「あっそ!」
「仲がいいのはわかってるけど、喧嘩はホドホドにな。んじゃお先ぃー」
「お疲れさまです、店長!」
「おつー」
最後のお客様を送り出し、片付けやレジ締めを終えた店内。
その店の奥の狭い事務所の店長机に腰かけて電源を入れると、
私の後ろでコータが、部屋の真ん中の長机に足を乗せ、パイプ椅子にふんぞり返った。
「何やんの?」
「ん、ちょっとね」
「すぐ終わんの?」
「時間目一杯いるつもり…」
「ふーん……早く終わらせて飯に行こうぜ」
「お腹空いてるんなら先に帰っていいのに」
「お前と一緒に行くことに意味があんでしょーが」
“アホか”とコータは小さく毒づいて、本棚の雑誌を手に取った。
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