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店長とコータと私の顧客数を比率で表すと、【4:4:2】くらいだった。
二人して“俺が5でコータが3だろ!”“いや、潤さんが4、俺は5、んで沙奈は1割だろ!”なんて言い合っていた。
否定出来ないのが悔しい。
実際彼ら目当ての女性客が多い。
店長は、日本人離れした顔とスラリとした手足と彼の持つ佇まいで、女性客はメロメロだった。
コータも、色白で肌荒れ一つない顔面に常に潤んだ目とスッとした鼻と毒づいたと思ったら時折イケボを漏らす口と憎めない笑顔で、やっぱり女性客を虜にしていた。
二人とも罪な男だ。
そんな中でも私を指名してくれるお客様がだいぶ増えていたようで、9時を過ぎてもカルテの半分にも達していなかった。
どうしよう…。
水曜の勤務終了後でまた残らせてもらう?
それとも明日の休みに来させてもらおうかな。
店長に電話しようか…。
凝り固まった首を左右にストレッチしながら思案してると、
「沙奈……」
ポツリ…とコータが私を呼んだ。
顔を合わせづらい私は、背後から聞こえる声に“んー?なーにー?”といつも通りに返事をする。
「お前、いつになったら俺に話してくれるつもり?」
「…」
「俺って…信用ないの?それとも…俺には言いたくない?」
どんな顔をしてるのか、容易にわかって振り返ることが出来ない。
「俺…お前の彼氏じゃねぇの?」
「………」
「仕事を辞めることも、地元に帰ることも、相談すらしてもらえない彼氏って……」
長机にバンっと叩きつけられる雑誌…。
「つーか…それって彼氏って言うの?」
どう切り出そうか迷ってずっと後回しにしてきたツケ…。
ここで泣いたって何も解決しない。
溢れそうな涙をグッと堪える。
「………ごめん…コータ」
背中を向けたままで…ごめん。
言い出せなくて…ごめん。
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