甘いモン

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ガシャン…とパイプ椅子が床に倒れた。 あまりの大きな音に指を怪我していないかと焦り、椅子を回転させて振り向くと、 目の前には、怒ったような困ったような顔のコータが立っていた。 「俺も言わない」 右肩に乗せられたコータの手は熱かった。 見上げる彼の顔は、告白してくれた時の表情に似ていて、恥ずかしそうに右の方に瞳がクルクルと動き、何か言いたそうに唇を噛んだ。 「お前が言わないなら、俺も言わないよ…言うわけねぇじゃん…」 「コータ……」 「なぁ………修行ってどれくらい必要なのかな…」 散らばる私の前髪を左手で揃え、その手はスルッと頬に添えられた。 「しゅ……修行?」 「あぁ……やっぱ10年とかかかるかな…俺、手先は器用だからすぐにコツは掴む自信はあるけど…でも甘いモンは苦手なんだけどそれって平気?」 「は?」 「実家……和菓子屋だろ?」 “ふふ…”と口角を上げて微笑むと、 「俺も今月で…って言ったら、潤さんが失神しちゃうから、そうだなー、3ヶ月待ってて?そしたら…お前んちに行くから…絶対…」 「和菓子…買いに来るの?」 「アホか……(笑)」 前屈みになったコータの唇がふわっと重なって離れていく。 「わかってないみたいね?」 ギュウ…っと抱き締められながら、何を言っているのかどういう意味なのかが理解出来た頃には、 コータの、遠回しなプロポーズめいた言葉に涙腺が崩壊寸前だった。 「なってやろうじゃない、和菓子職人に(笑)ナメんなよ?俺がお前にどんだけ惚れてるか見てろよな」 しばらく後、 小さな田舎町の小さな和菓子屋の見習いだった若者が名誉ある賞をとり、 その若者の小悪魔的な容姿と達者な口もあいまって、お店は大繁盛したそうな。 *完*
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