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冬休みだというのに早く起きた私は、 新しい本を探そうと、 駅ビルの中にある本屋へ足を運んだ。 日曜の開店時間を過ぎたばかりの街は、 あちこちから聞こえる音楽と、 店先を飾る赤も緑も全部が、 ワクワクする気分へと掻き立てている。 もう少し大きい本屋は家の近くにある。 たぶん品揃えだって向こうの方がいいはず。 それでもわざわざ駅ビルの中のこじんまりしたこの本屋に来たのは…。 クリスマスの音楽よりも、ずっとココロをふわふわさせる理由が、 この本屋には“いる”から。 「ありがとうございましたー」 いる……。 遠くからでもわかる声。 お会計をする女性のお客さん越しにピョコンと飛び出して見える、愛くるしい笑顔。 あぁ…。 何て言えばいいんだろう。 何ていう言葉が合うんだろう。 彼を表現するのに、私にはまだまだ足りないものが多い気がして、 そこからどうしてか“もっといっぱい本を読みたい”って思えてくる。 あの人を表す言葉を得るために。 あの人に……近づくために。 私の胸を締め付けるこの感情が何という名前なのか、 私はまだ知らない。
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