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パラパラと目を通す本は、今日はどれもつまらなそうに思えた。
それでもせっかく本屋に来たんだし、今まで読まなかったジャンルに手を出そうかな…と、目的を変えて本棚を眺め歩いた。
手に取った2冊の本。
薄い方を選んで、もう1冊を本棚に戻そうと背表紙を摘まむ私の手に、
大きくてあったかい手がフワッと重なった。
「おれはね、この方がおすすめ」
トーンを落とした声が、肩の上から聞こえた。
戻したつもりの本と一緒に、
いつも見ているだけだった笑顔が、
目の前にあった。
店内に流れるクリスマスソングが、彼の声を邪魔する。
ドキドキと煩い心臓の音が、彼の声を邪魔する。
「……ない?」
「えっ?」
潜めた彼の声が聞き取れずに、
すぐ隣を見上げた。
伏せた目が美しかった。
長く濃い睫毛に触れたいと思った。
ちょっと尖らせた唇が可愛いと思った。
「このあと……」
このあと……?
はてなマークを頭に浮かべた私に、
レジお願いしまーすという誰かの声が聞こえ、
「あっ、はーい!今行きまーす!……ごめんね…」
紺色のエプロンを着た相田さんは、その裾を揺らして私の後ろを小走りで抜けていき、小さなカウンターの中に入っていく。
「お待たせしました!」
「カバーお付けしますか?」
彼のあの笑顔が、私以外に向けられていることが、
初めてイヤだ…と思った。
ほんの数秒間の出来事で、
今、私の胸を締め付けるこの気持ちの名前は、
恋というんだと知った。
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