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ウロウロと探し回ってようやく見つけた『アオゾラ』は、1本裏に入った路地にある喫茶店だった。
一人でこういうお店に足を踏み入れることなんて初めて。
重めのドアが緊張を煽るけど、思い切ってそのドアを開けた。
カウンターの中のエプロンをした男性がマスターなんだろう。
その前の席で談笑していたと思われる男性と、
テーブル席でうたた寝をする男性と、その人に肩を貸す男性…。
場違いな私に驚いてるのかもしれない。
店内の空気がピーンとなって、
「いらっしゃいませ」
と、カウンターの中の人の声がやけに響いた。
「お好きな席にどうぞ?」
「つったって、窓のとこしか空いてねーじゃん!オレの隣はいやだろうし、あっちはアッチでアレだもん、……ね?」
確かに、カウンターの席の人が言うように、うたた寝の人ともう一人が座る席の隣のテーブルでは気まずい。
カウンターも、その人の隣しか椅子はないし…。
「いえ…あ…人を待つので……ここがいいです」
「そうですか……じゃ…どうぞ」
窓側の、駅の方が見える席につくと、白いシャツと黒いエプロンの似合うマスターがお水を運んできた。
マフラーとコートを脱ぎながら、小さなメニューに目を落としていると、
「カモミールティーでいい?」
勝手に飲み物を決めてきた。
「おいおい!テツさん。選ばせてあげなって」
カウンターにいる人にテツさん…と呼ばれたマスターはニーッと笑って私を見て、
「だって…緊張してるでしょ?」
そう言うと、“美味しいし、落ち着くから”と、ウインクを付けてメニューを下げ、カウンターに戻っていった。
不思議な雰囲気の人…と、お店…。
彼が来る前にこの雰囲気にのまれてしまいそう。
でも、
彼が来るまではまだだいぶ時間はある。
呼吸さえ苦しいのも、
さっき指先が触れた部分の熱も、
本当にここへ来るのか不安な気持ちも、
マスターが入れてくれたいい香りのカモミールティーでゆっくりと落ち着かせよう…。
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