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買った本を一旦開いてしまうと、次へ次へと指が進んでいく。
彼が薦めてくれたから…なのか。
彼と私の好みが似ているから…なのか。
テーブルに置いてくれたカモミールティーに口を付け、文字が作り出す世界を一人で心地よく漂いながら、
何気なく顔を上げると、外の寒さを伝えるように窓のガラスが曇っていた。
室内にいるのに思わず両手を擦り合わせると、
「寒いの?」
カウンターの男性が柔らかい声で私に尋ねてきた。
その表情も優しくて、首を傾げる仕草に私はつい笑みが溢れた。
「ん?なに?そんなにオレを見つめちゃってー♪」
「へ?あ、いえ…///」
「駄目だよ?コイツに惚れちゃ…」
「うるせーんだよ、テツさんは。いいじゃんかっ!」
「あの……わ、私はっ…」
「わかってるって。今待ってる人が…好き。………そうでしょ?」
マスターは切れ長の目を細めてぴたりと言い当て、“おかわり入れようか?”とあったかいカモミールティーを注いでくれた。
湯気が立ち上がり、また更に窓ガラスがうっすらと曇った。
その向こうに、
首元をマフラーでグルグル巻き、
鼻の頭を真っ赤にし、
息を切らして走ってくる彼が見えた。
本をパタ…と閉じて深呼吸をすると、
カモミールが私を勇気づけてくれた。
ドアが開いて、外の冷えた空気が流れ込んできた。
それなのに、
一瞬でお店の中が春になる。
待ち合わせ時間よりも早い、
2:25PM。
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