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数日後。
朝礼時に部長の隣に立つ彼女から目が離せなかった。
『この度N市の支社に課長補佐として………』
N市って、新幹線使うあの海沿いのとこ?
『今月いっぱいで………』
今月って、あと何日ある?
急にどうして?
肩書きこそ昇進してるけど、N市の支社なんか『定年を迎えるオジサマ達』でいっぱいのところで、言わば墓場同然の支社だ。
そんなところへ何故?
仕事なら、同期の連中よりも、ここの課長よりも数倍は出来る人なのに?
ふと過ぎる彼女が飛ばされる理由。
思い当たるのはたった一つ。
オレのあのミスだ。
でもあれはあの時に解決したはずだし、昨日だって電話入れたら「今度は間違うなよ!」なんて笑ってくれてたんだぜ?
朝礼が終わってすぐに社内メールを飛ばし、喫煙所に彼女を呼び出した。
「オレのミスのせいなんですよね?」
彼女に問いただしても、帰って来る返事は想像通りで、
「サラリーマンだから異動の命令は絶対よね」
と、どこかあっけらかんとしていた。
「オレのせいならオレが行くべき……」
「二宮?」
「はい」
「出る杭は打たれる」
「え?」
「二宮は、“出過ぎて見上げられるような杭”になってね」
「ひろみさん……」
「じゃ、行くね」
先に喫煙所を出て行く彼女の背中を見つめ、聞きたいことも言いたいこともモヤがかかったようで、
「ひろみさんっ!」
名前を呼ぶのがやっとだった。
「何?」
振り返らずに歩みだけ止めて答える彼女の声は、少し震えている。
「オレ、好きですよ」
「………」
「ひろみさんはオレのこと……」
「……好きとかじゃないから」
「ふ……(笑)」
「二宮?」
「はい?」
「私がいなくなるまであと少ししかないから」
「はい」
「やっておかないといけないことたくさんあるからね」
「はい」
「あと1本だけ吸っていいから、終わったらすぐにデスク来てくれる?」
「はい」
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