ひっそりこっそり大作戦(仮)

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 10月初旬、季節は秋。  朝晩は冷えるが日中は残暑でまだ暑い。  平日のお昼前という時刻だからか、  電車には乗客が少なく余裕で座席に座れた。  1人で電車に乗るのはホント久しぶり。  自分の古巣でもある尚人の勤務先は、  尚人のマンションから1駅隣。  駅からも数分という近い距離にある。  ふと自分の左手の薬指に嵌められた指輪を見て、  尚人は会社で指輪を嵌めてくれてるだろうかと、  少し心配する。  私と結婚した事を尚人は社長に報告している。  その事実を会社の社員が知っているかは分からない。  会社の皆は元気だろうか。  伊東君はどうしているかな、  なんて考えているうちに、  あっという間に電車が到着した。  電車を降りて改札口を出て、  少しの距離を歩くと、  ガラス張りの一際大きな建物が見えた。  総合商社ユニシス。  私の存在がバレると色々面倒だから、  パーカーの帽子を目深に被り会社に入る。  そうこのミッションは、  ひっそりこっそりお弁当お届け大作戦!(仮)  なのだ。  密やかに速やかに遂行するのが任務。  こそっと行ってサクッとお弁当箱置いて、  ちゃちゃっと帰ってくる。  決して尚人の仕事の邪魔にならないように。  会社には私服の外部の人が出入りしているから、  顔さえバレなければ誰も私だと気付かない。  連絡なしで部長室に突然私が現れたら、  尚人はきっと驚くだろうな。  尚人のびっくり顔を見たい、  なんて考えながら、  少し緊張気味に中に入って行くと、  入り口の受付の女性と目が合った。 「いらっしゃいませ」  我が子よ。  母は忘れていたのだ。  そしてたった今思い出した。  この会社では来客者は、  受付で必ず記帳する規定がある事を。  社員以外は例え社員の家族でさえ、  記帳をして確認を取った後で、  ようやく中に入る事が許される、  セキュリティシステム。  記帳を拒否したら警備員が駆け付ける。  下手に逃げでもしたら警察を呼ぶ。  約半年前から警備が厳しくなった事を、  すっっっっっっっかり忘れてた。
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