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壁に掛かる時計は午後3時半。
尚人は私にずっと付き添ってくれていたんだ。
カレの仕事が山積みな件を知っていたのに、
私は結局仕事の邪魔をした・・・。
ゆっくりと起き上がり、
横にいる相手に伝える。
「私、家に帰る」
「大丈夫なのか?」
「うん。少し眠ったらすっかり元気。それに、いつまでもここにいると点滴の1本位されそうだし、早く退散したい」
「確かに」
そんなふうに言って、
クスリとお互い笑い合う。
点滴は懲り懲りだ。
ベッドから降りて、
病院のスリッパを履いた。
「私、1人で家に帰れるから。大丈夫だから、尚人は早く会社に戻って。これ以上尚人の仕事の邪魔をしたくない」
「駄目だ。お前をしっかり家に届けてから会社に戻る」
「心配性ー」
立ち上がりながら少しふざけてそう言うと、
長身のカレは屈むようにして、
ふいに私を抱きしめた。
そして真面目な声音で言う。
「死ぬほど心配したぞ」
「・・・ごめんなさい・・・」
キュッと両手で優しく抱きしめられ、
自分も相手の大きな背中にそっと手を回す。
少し低い体温。
安心できるその体温。
尚人の匂いに包まれながら、
カレからの真っ直ぐな愛を全身で感じた。
病院を出て、
マンションに帰るために2人でタクシーに乗る。
尚人が運転手に行き先を告げて、
車が走り出した直後、
突然お腹に小さな衝撃を感じた。
自分の腹部をそっと触り、
凝視していると、
隣に座るカレが心配げに声を寄越す。
「どうした、痛むのか?」
「尚人・・・赤ちゃんが動いた」
「本当か?」
コクリと頷いて返事を返して、
尚人の手を掴み自分のお腹を触らせる。
するとまた赤ちゃんは、
お腹を蹴った。
尚人の驚いた顔。
私だって驚いてる。
だって今初めて赤ちゃんが動いたんだから。
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