第15章 助っ人ヤンキー

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思いっきり、他のお客が誰ひとりとして入れない所に立って、気合入れてますって、眉毛を吊り上げて、真っ直ぐ前を睨みつけている。 「矢代睦月といいます! 短期でバイトさせてくださいっ!」 むーちゃんが顔を真っ赤にして、緊張のあまり、すぐ隣でもの珍しそうにヤンキーという生き物を眺めているおばさんの視線ガン無視して、一点だけを見つめ叫んだ。 「あら、まぁ」 「宜しくお願いしまっす!」 野球の試合が始まるみたいに深く頭を下げて、その拍子にガッチガチに固まった金色の髪がペロンとひっくり返り、むーちゃんと同じようにお辞儀をしていた。 嘘みたい。 バチン! 「……何やってんだ、輝」 嘘じゃなかった。 伝票の挟まったボードで思いっきり自分の額をぶったけど、おでこが赤くなって、痛いだけ。 だからこれは嘘でも夢でもない。本当に、今、ここで起きている。 「別に。アハハハ」 だって、ぶちたくもなる。 むーちゃんが一緒にカウンターレジに入ってるんだから。 カウンターテーブルに邪魔されることなく、隔たりひとつなく、一緒に立っている。 「んで? ここで、小計押すんだろ?」 「あ、うん、そう、そしたら、お金を……」 むーちゃんが一緒にバイトしてる。 人生初バイトをコンビニムラキでしている。 「おお! レジ出てきた!」 ほら、金額打ち込んで、小計押したら、ジャンって飛び出すレジの引き出しに目を輝かせてる。 「うん、そしたらおつりを」 可愛すぎるでしょ。 おじさんの店だから、主であるおじさんがいないんじゃ大変だろうからって、手伝いを買って出てくれた。 「なぁ、俺、レジとかでいいのか?」 「なんで?」 レジ打ちの練習しながら、ふたりで内緒話とか萌えるんですけど。 初バイト、初レジに頬ピンク色で可愛いし、しかも、エプロンなんだもん。 萌えないわけないでしょ。 俺、エプロンはフリフリレースてんこ盛りよりも、シンプルで本当に使えそうなエプロンのほうが良い派だから。 今、それを思いっきり目の前で、大好きなむーちゃんにしてもらってるとか、最高すぎる。 腰骨ありがとう、とかお礼と一緒に、今度ゼリーでもお見舞いに持っていこうと思うくらいに、最高だ。
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