第16章 充電中

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理由は顔が怖いから。 おばちゃんは全然怖がってなかったけど、初バイトに緊張してガチガチになったむーちゃんにお客さんがビビってしまうため、やむなく裏の倉庫で品出ししたり、そのもっと裏にある厨房で仕込みを手伝ったり。 夕方だとお弁当はもう作らないけど、その時間、いつもおばちゃんが裏で翌日販売する弁当の下ごしらえをしている。 それを手伝っていた。 表、店のほうは俺が担当する感じで。 「裏の倉庫んとこ、暑いでしょ?」 「別に、仕事だ、そんなん気になんねぇよ。それより、俺こそ、店でレジの仕方せっかく教わったのに、全然」 レジができなかったと、肩を落とすむーちゃんがたまらなく好きだ。 ヤンキーだし、すぐにパンチしてくるし、口悪いけど でも、どこまでも本当は優しいむーちゃんが大好きなんだ。 こんな人はきっとどこを探したって見つからない。 俺のスーパーヒーロー。 そんなの性別とか軽く飛び越えて好きになるに決まってるじゃん。軽々超えられる。 今、きっと、自分役に立ててねぇ、って怒ってるでしょ? 誰に、とかじゃなく、自分自身に怒ってる。 唇をきゅっと結んで、眉をキリッとさせて、真っ直ぐ前だけ見て。 いつもそうだ。むーちゃんは絶対に曲がらない。 真っ直ぐ、どこまでも真っ直ぐ折れない。 折れないために強くなったし、折れたくなくて、誤解されることも多い。 むーちゃんが中学の頃、ちょっと大問題を起こしたことがある。 大問題なのに、ちょっとっていうのはおかしいかもしれないけど、事の始まりはすごく小さいことだった。 学校の近くの公園でタバコを吸っているおっさんがいた。 すぐ近くでは小学生が遊んでいて、ベビーカーを押してるお母さんもいるのに、タバコを灰皿もない公園で吸っていたおっさん。 誰も注意しない。 ただ、非難の視線を向けるだけ。 でも、むーちゃんは違ってた。 柔らかさゼロ、温和さゼロで、初っ端から喧嘩モードでおっさんに食って掛かって――でも、そのおっさんが中学の先生だった。 悪いのはどっち? なんて、誰もがわかるのに、事は捻じ曲げられて、クネクネに曲がって、ヤンキーのむーちゃんが公園にいた先生に突然喧嘩を吹っかけたってことになってしまった。
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