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「むーちゃ…………何、それ」
「握り飯!」
「……でかくない?」
「腹、減ってんだろ? 輝に握り飯作りてぇって言ったら、おばちゃんが良いっていうからよ」
あぁ、だからか。
さっきおばさんがやたらと笑顔だったのは、きっとこのおにぎりのせいだ。
「食え!」
むーちゃんが無邪気に笑いながら、特大サイズのおにぎりをズイッと俺のほうへと差し出した。
その笑顔があまりに可愛くて、この場で抱き締めてキスしたくなる。
この笑顔見たら、そりゃ誰だってつられて笑顔になるよ。
むーちゃんの笑った顔は特別なんだから。
「平気か? 輝、疲れたろ」
「別に、全然」
夜道を歩く、たったそれだけでもこんなに幸せなのに、疲れてる場合じゃないでしょ。
すっごく嬉しい。
だってさ、バイト先じゃ、ちょっと、俺のほうが先輩なんだ。立場逆転っていうか、二年の差がなくなるっていうか、それが嬉しい。
「あのおにぎりのおかげです」
「おうっ!」
この笑顔を独占したい、じゃなくて、独占できていることが最高に幸せだ。
「むーちゃんのほうが疲れたでしょ?」
「……」
「仕込み、すっごい頑張ってるっておばさん褒めてたよ」
「……なんか」
最高に幸せ、だったのにな。
でも、最近、欲張りになってきた。
両想いになる、こんなこと夢でも見られないくらいに奇跡的でレアで、ありえないことだったのに。
この関係、距離感をずっと望んでいたのに
いざ、この距離に近づくと、もっと近くにいきたくて、触れたくて仕方がない。
「なんか、輝、前とちげぇ……」
自分が欲張りすぎて呆れるよ。あれもこれも、って、ありえないじゃん。
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