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僕は、呆然と立っているより仕方がなかった。
「僕のロープ………」と、思わず声を上げそうになった。
そんな馬鹿なことはない。これでよかったのだ。
あの男が何者かは知らないが、これで助かったんじゃないか。
あんな物、買うつもりでも何でもなかった。
もしあの男が駆け込んでこなかったら、僕は、あの、一方の端が輪になったロープを買っていたのだろうか。そうだったような気もするし、そうでなかったような気もする。
でも、とにかくあれはもうないのだ。僕は買わずに済んだのだ。
なにか、大きな虚脱感が押し寄せてきていた。
だが、次の瞬間、僕は難問にぶちあたったことに気付いた。
そう、確かにあの忌まわしいロープは買わずに済んだけれど、それならば、今日は一体何を買えばいいのか。
あのロープがなくなってしまった以上、その店の中で僕の目を引くものは何も見当たらなくなってしまった。
僕は途方に暮れた。
一瞬の事で、あまり良く覚えてはいないのだが、とにかく頭が混乱して、どうしていいのか分からなくなった。
「どうしました?」
あの店長だ。
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