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「いや……。」
「ご用がないのなら、そんなところに突っ立っていられては仕事の邪魔になりますから。」
「え?」
「今日は、お客様にお買い上げいただくものは何もございません。」
「何だって?」
「あなたにお勧めするものは何もないと言ってるのです。」
その途端、何やら体の力が抜けていくような気がした。
こいつ、今度は何を言ってるんだ。失礼な奴だ。
そうか、もうこの店には絶対来ないぞ。
そう思いながらも、この得体の知れない店長と喧嘩をする元気もなく、僕は疲労を感じながらその店を出た。
「ありがとうございました。」と言う声が背中から聞こえた。
しかし、いつもの口調ではなく、なにか重々しい響きがあった。
自動ドアが、閉まった。
なぜか、もうほんとにこの店に来ることはないように思えた。
その時、右の方から猛スピードでこちらに走ってくる車が見えた。
続いて、急ブレーキの音が聞こえ、空が回ったような気がした。
(了)
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