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前置きが長くなってしまった。
とにかく、僕は何か食べるものを買おうと、いつものコンビニに向かって歩き出した。
平日の昼間に、アパートの近くを歩くなんて久し振りだ。
僕のような、もうじき三十の大台にのろうとしている男が、まあ一応社会的にまともな日常生活を送っていると、自分の住んでる場所については、朝のほんの限られた時間と、夜の何時間かしか見てはいない。いちばん身近であるべき町が、そのごく一部分しか姿をあらわしてはこないことになる。
もちろん、休日はある。しかし、休日とウイークデーでは、これまた町の様子もまったく違って見えるものだ。歩いている人が違う。開いている店が違う。が、それよりも何よりも、そもそも、平日と休日では、そこを流れている時間の早さというか密度というか、要するに、質が違う。
そんなことを確かめるように、その日、僕は、わざとゆっくりゆっくりと歩いていた。そして、そのテンポに合わせるように、街路樹がゆったりと風にそよいでいた。通りをいく人々を行く人の動きものんびりしている。
いつもと同じはずの町並みが、まるで舞台の書き割りのように存在感が稀薄に見えるのは、やはり風邪で熱でもあったのだろうか。
と、目の前に見慣れないコンビニエンスストアがあった。いつも行く店はもう少し先の、そう、喫茶店の角を左に曲がったところだ。こんなに近くにまた別の店がオープンしたのだろうか。
そもそも、ここは、前はなんだったのだろう。いったん建物ができてしまうと、その前が空き地だったのか何かがあったのか思い出すのはとても難しいものだ。まして、その日の僕は頭がボーッとしていたから、まるでその店が蜃気楼か何かのように思えただけだった。
その店は、どうも見慣れない名前だった。今までに知っている系列の店ではない。でも、間違いない。いかにもコンビニらしい名前、デザインで、ガラス張りの中に見えるレイアウトも、よくあるものだった。
とにかく、今までより少しでも近いところにコンビニができたということは歓迎すべきことだ。こんな近いところでは、いかに成長産業とは言え過当競争で大変だろうなどと思うのは大きなお世話だろう。
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