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「驚きましたか。
でもね、うちはそのお客さんが本当に必要なものを売るのが仕事なんです。ま、当たり前の事かも知れませんがね。やっぱりどこかよそと違うサービスをしないとね。今は生き残り競争が厳しいですから。」
その男は、こちらの考えていることが分かっているんだか分かってないんだか、口に一杯唾を溜めながら、一生懸命しゃべっている。
単なるお愛想なら、曖昧にうなずいておけばいいのだが、どうもこの男は自分の言うことに確信を持って説得しようとしているようだ。
議論をする気などさらさらないし、これ以上近付いたら嫌な口臭をおもいっきり吹き掛けられそうな気がして、ぼんやりと異星人でもみるようにその男を見ていると、もう勝手にお粥を袋にいれながら、にやりと笑ってさらにこんなことを言った。
「本当はね、お客さんが買うべきものを真っ先に手に取れる場所に置いとかなきゃいけないんですけどね、今日はお客さん初めてだから、仕方ないですよね、勘弁してください。次からは気をつけますからね、またご贔屓にお願いしますよ。」
次々と繰り出される予期しない言葉に、僕はほとんど考える力を無くして、気がついてみたら、そのお粥を買って店の外に出ていた。
外は、相変わらず爽やかな昼下がりだったが、やっぱり熱があったのだろうか、太陽がやたらと眩しく、その場に倒れたら溶けてしまいそうなけだるさを感じていたことは覚えている。
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