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「俺は! 妻を殺してしまったんだ! 許してくれ! 冬実ー!」
今日も倉持さんは池に向かって叫んでいる。
その悲痛な声に胸が痛む。
どれほどの後悔が彼の心を苛んでいるのだろう。
「柏木さん、元気な赤ちゃんを産んでね」
スタッフや入居者の皆さんに見送られて、私は『シャングリラホーム』を後にした。
「あっ! 動いた!」
初めての胎動にビックリした。
「え!? どれどれ?」
隆文がお腹を触る。
妊娠がわかったとき、今度こそ大事に守っていこうと2人で誓い合った。
この子が無事に生まれてきてくれたら、いつか私たちの馴れ初めを聞かれるかもしれない。
お父さんとお母さんは愛し合って結婚した。それだけでいい。
今となっては、それが一番真実に近いんだから。
母親が父親以外の男との子を身籠って偽装結婚したなんて話は、成人後でも子どもは聞きたくないだろう。
だから、このことは隆文と私だけの永遠の秘密だ。
墓場にはそんな秘密が溢れかえっているに違いない。
END
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