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長い夢を見ていたようだった。
今もあの幻聴が頭に余韻を残している。
彼女に似合う綺麗な不思議な響きを残した声だった。
雨が降っていて、
この町は朝を迎えている。
周囲の気配を探れば、どうやらここへ訪れた時から今まで誰の気配もこの場所には残地していない。久しぶりの失態に頭が痛くなる半面、張っていた緊張の糸が切れ全身の力が抜けていくのを感じた。
目の前には不思議そうに首をかしげ、
心配げに傘を差し出す店主。
『大丈夫ですか?顔色、悪いですよ』
いつの間にかしゃがみ込んでいた自分の目線に合わせるように彼女の姿が視界に収まる。
まだこんなに朝早いというのに、もう店の準備か。
のんきにそんなことが頭を過った。
「…えぇ、大丈夫。少し立ちくらみがしただけですから」
シレっとその場に立ち上がると、先程までの不愉快な胸の気持ち悪さは嘘のように晴れていた。
目の前で呆気にとられたように私を見上げる彼女に、何か優越感のようなものを感じて口の端が無意識に釣り上がる。あぁ、私って本当に性格悪いですね。と小さく一人ごちた。
そうすると彼女はゆっくりとその場に立ち上がって、今度はおかしそうに笑った。
「何がおかしいんですか?」
不機嫌を隠そうともしない私の表情にまた笑顔を浮かべて、
『歳破さんもそんな子供みたいなことするんですね』
と言う。
そして続けて、
『ただ、お医者様が立ちくらみなんて…あまり言っていい冗談ではないなと思って』
と言った。
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