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「確かに。それはまた私としたことが一本取られましたね^^」
立ちくらみという言い訳が嘘だというのは直ぐにバレていたらしい。
本当に面白い。
『こんな朝早く、こんなところで何をしていたんですか?』
「こんなところ、とは?」
『だって、ここ』
『「うち」の前ですよ?』
偵察は終り、帰路に就くだけだった私自身が空想にふけっていた時。
無意識に彼女の店の前に移動し蹲っていたらしかった。
『そんなに開店が待ち切れなかったんですか?^^』
冗談交じりに返されて、またその姿に魅了された。
薄く微笑む柔らかな微笑み。日の光で光り輝く白髪。色素の薄い瞳。
あぁ、本当に。
「…そうかもしれませんね」
小さく漏れ出た言葉。
憂いを帯びていたであろう自分の顔が薄く微笑むのを感じる。
彼女にはどうか幸せで、
この醜い世界の争いとは無縁の何処かで平和に生きていて欲しいと。
「貴女のこれからに数多き幸あらんことを」
茫然と私の笑顔を見て固まった彼女の頭を少し撫でつけて、
優しく後頭部にキスを落とした。
「では、また会う日まで」
足取りは軽かった。
次はいつこの町に来ることがあるだろうか。
明日の偵察できっと全てが終了し、ここに来る必要もなくなる。
その時は息抜きとして、
自分の休憩のためだけにこの町に来てみようか。
この敵国に住む友人にも会いに来よう。
いずれ殺しあうかもしれない相手だ。今のうちしか世間話も出来ないだろう。
未来は溢れる。
「素敵な町だ。ここは」
彼女を振り返ることなく、
何時かの未来を夢想して町を後にした。
さあ、
彼女は今どんな表情をしているかな。
【End】
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