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「君逝きて浮世に花はなかりけり。牛子君が流した涙は、きっと夏目先生にも届いておるよ」
寺田が手を合わせながら告げると、雨に濡れていた喉骨がゴトリと鳴った。
(さよなら夏目漱石)
私は寺田の横に並んで、百年の恋を祈るように手を合わせた。
「明智君はこの後どうするのだね?」
本性寺の山門まで戻った寺田が、妙に晴れがましい表情をした明智に訊ねた。
「今回は寺田先生のお陰で勉強になりました。僕はこれから上海に渡るつもりです」
「大陸か。また日本に戻ったら逢いたいな」
「その時はぜひ!」
そう溌剌と挨拶をして、明智は飄々と去って行った。
それが後に日本を代表する名探偵となる、明智小五郎との初めての出逢いであった。
──藁人形の墓~さよなら夏目漱石~ 御仕舞
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