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「小泉八雲が熊本の第五高等学校を退職した後に、夏目先生が同じ第五高等学校で英語の教鞭を執っています。
さらに八雲が東京帝大を退職し、そこに夏目先生が後任で就いていますね」
「さすがは明智君。退職された八雲の家に、夏目先生が俳誌『ホトトギス』を毎号届けていたらしい。
ちなみに小泉八雲の墓は、夏目先生が眠る雑司ヶ谷墓地にあるよ」
「その怪談で有名な八雲と、今回の件は何か関係があるのですか?」
ますます深まる謎に、好奇心を逸らせながら訊いた。
「まさしく怪談なのだよ」寺田がおもむろにうなずいた。
大小さまざまの石が佇立する墓場に足を踏み入れると、寺田がキョロキョロと辺りを見回しながら歩を進める。
どうやら何かを探しているようだ。
「小泉八雲が著した一編に『人形の墓』というものがある」
「それって藁人形の……!?」私はもれた言葉を呑みこんで話を促した。
「八雲がある屋敷を訪れた際に、稲という娘から奇妙な因習を聞いた。
1年のうちに家族で2人亡くなると、3人目も亡くなるとこの土地では言い習わされている。
そのために藁人形を柩に入れて葬れば、第3の死者は出さないで済むという話なのだ」
「それが『藁人形の墓』ですか……?」
「八雲はその話を実は、後輩の夏目先生から聞いたのかもしれない」
「ははあ~」明智がほくそ笑んだ。どうやら何か閃いたようである。
「その奇妙譚の出所と思われる夏目先生の家族だが、明治20年の3月に長兄・大助と死別。
同年6月に次兄・夏目栄之助と死別しているのだよ」
「あっ、同じ年に2人が亡くなってる……」私の鈍い脳細胞にも薄々わかってきた。
「左様。3人目の死者を怖れたのか、おそらく『藁人形の墓』を行ったのだろう」
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