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「それで夏目先生は助かったのですね」
「さにあらず。さらに三兄・夏目和三郎の妻である登世(とよ)と死別するのだよ」
「……結局3人亡くなったのですね」
私が肩を落とすと、寺田が首を振りながらつぶやく。
「これは悲しい恋の話なのだよ」
「夏目先生の……恋ですか……」
「牛子君は、夏目先生の『夢十夜』という話を知っているかね?」
それなら読んだことがある。「こんな夢を見た」という書き出しで綴られた、10の短編を集めた幻想文学のことだ。
「八雲の『心』に対して夏目先生の『こころ』と、八雲の怪談に応えるように夏目先生は『夢十夜』という怪談を著したのだよ」
なるほど、言われてみればたしかに『夢十夜』は怪談だ。それにしても恋絡みの怪談があっただろうか。
私が記憶の隅をまさぐっていると、
「『夢十夜』の第一夜ですね」
明智が確信に満ちた声で言った。
「腕組をして枕元に坐っていると、仰向けに寝た美しい女が自分はもう死ぬと言う。
死んだら“百年、私の墓の前で待ていて下さい。きっと逢いに来ますから”と約束して、女が静かに息を引きとる。
約束のとおりに墓の前にいると、いつの間にか百年の月日が経っていたという話である」
「それが『藁人形の墓』と関係があるのですか?」
私はまだ謎が解けないでいると、寺田がひどく疲れた声音で囁く。
「3人目に亡くなった三兄・夏目和三郎の妻である登世と、末っ子の夏目先生は許されぬ恋に墜ちていたのだよ」
「兄の嫁である登世さんとッ!?」
驚天動地の言葉に、頭の芯がグラリと揺れた。それは秘された不倫の告発だったからだ。
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