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そのとき。
鋭い破裂音がスタジオにこだました。
カメラの枠のなかに、頬を押さえて床に伏し、信じられないものを見るような目で千早を見つめる達也がいた。
ディレクターは固まった。これは放送事故か、それともチャンスか。瞬間視聴率が心臓の鼓動のように跳ねたのを、彼は確認している。
一カメの若手が、困った顔でこちらを窺うのに、ディレクターは頷いてみせた。
(このまま、行こう)
そんなスタッフたちの束の間の緊張もよそに、先ほどまで頑なに守ってきたキャスターとしての矜持を捨てて、千早は泣いていた。
「なに諦めてんのよーッ」
悲鳴ともとれる、叫びだった。
「夢は叶う、磨いた翡翠は美しい。あんたが言ったことでしょう?」
「でも、俺は、自分の夢をシュンに肩代わりさせて……」
「夢を与えるプロ野球選手になれなくても、他人の夢を叶えることはまだあんたにはできるんだから!」
達也はポカンと口を開けた。もうすぐ死ぬ身に夢など与えられるのだろうか。もし可能ならやりとげたい。そう達也が思ったのを見計らって、千早が絶叫した。
「私と、同じ屋根の下で、同じ釜の飯を食べてください」
すったもんだの、前代未聞の、あろうことか女子アナの、公開プロポーズだった。
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