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砂漠にこそこの上なく似つかわしい光景かもしれないが、地元民からすれば、いや砂漠に足を踏み入れたことのない人が見ても、この二人にはどこかおかしいところがあった。
まず何といっても、二人はあまりにも軽装だった。十月の終わり、夏の一番暑い頃でないにしても、昼間は肌を焼き、夜は肉を刺す砂漠の寒暖差に対して、男たちの装備はあまりにも簡易だ。古ぼけた小さなテントが一つ張ってあるものの、飾りでしかないとばかりに男たちはそこから転げだし、砂丘に毛布一枚敷いただけの姿で寝転がっている。どうやら荷物も革のバッグ一つしかないらしく、それも無造作に扱われてテントから半分飛び出している。彼らの服装そのものも、時代を考えれば大分奇抜だ。砂漠といえど二十一世紀、五キロもいけば電気の通った村があり、テレビがあり、電話がある。猫も杓子も機械縫製のシャツやパンツを着る。冠婚葬祭でもなければ民族衣装など少数派だ。それだのにこの男たちが着ているのは手縫いのローブ、それも地域の伝統ともかけ離れた、絵本の挿絵から抜け出てきたような幻想の衣だ。
何より不思議なのは、移動手段を持っている形跡が見当たらないことだ。タイヤの跡や蹄の痕跡は昼間の砂嵐がかき消していっただろう。だが寝転がる二人の周囲には当の乗り物が何一つない。ラクダも、馬も、車でさえも――彼らは全く、着の身着のまま、砂丘の真ん中に眠っているのだった。
他人が見れば動揺しそうな旅姿も、男たちには一向気にならないらしい。楽しんでさえいるのだろう。その証拠に、仰向けになった男の唇は時々かすかに動き、静かに微笑みながら何かを呟く。指先が夜空をなぞるように動くところを見ると、星の名前を数えてでもいるのだろうか。
彼は心から、砂漠の夜を楽しんでいるようだった。怖いものなしの純真な喜びに浸り、星砂に抱かれて眠っていた。
うずくまっている方の男は、果たしてどうだっただろうか。口元の表情は髪に隠れて見えない。だが、閉じた瞼の下で眼球は落ち着きなくごろごろと震え、耳がぴくりと動く様子からすると、必ずしもリラックスしているわけではないらしい。
その警戒が当たったものか、爽やかな夜の砂漠に、一群の異物が侵入してきた。
黒い、多数の影だ。二人の寝ている砂丘のくぼみを取り囲み、じりじりと音も立てずに四方から這い寄ってくる。
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