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細い月明かりに照らされたそれらの影は、いずれも統一されたヘルメット、防弾チョッキの重武装で、手に手に自動小銃を持っている。ローブ姿の二人とは好対照を成す現代的な装備は、作戦中の特殊部隊のように見え、事実その通りだった。
標的を囲んで、兵士たちの輪が狭まる。バラクラバの下で押し殺した息がこもり、匍匐する膝が一歩一歩神妙に砂をえぐる。
影の大半が砂丘の頂上に達したところで、蠢く群れの一人一人も数えられるまでくっきりと姿を現した。その数約三十人あまり。無線機の一つも持っていない若者二人を相手にするにしては、いささか大袈裟すぎる構成だが、彼らにはたった二人を念入りに蹂躙するだけの、のっぴきならない事情があった。
その事情の重みを今一番強く胸に感じているのは部隊の隊長だったが、彼は緊張を悟られまいときびきびハンドサインを出し、部下たちを静かに立ち上がらせた。
標的までの距離はわずかに五メートル。砂丘の下まではゆるやかながら傾斜がつき、気づかれたとしても素早く駆け上がるのは至難の業だ。狙いを誤るはずがない。狙いを誤ってもいい、どれだけ撃っても構わないと指示ももらっていた。生きていても死んでいても構わないから、とにかく身柄を確保し、厳重な警備の下に置くように――殺す気でかかれと。
部下たちは完全に配置についた。のん気に大の字になっている男を取り囲み、ほとんどその体を覆い隠さんばかりに自動小銃を突きつける。あとはただ、号令を待つばかりだ。
ただただ撃ち続ければいい。何があっても、尻込みせず撃て。彼らは命令のみに集中し、少しも怖気づいている様子はない。
恐れを感じているのは恐らく、標的が何者かを知らされている隊長、ただ一人。
ナイトスコープの奥で、歴戦の皺を刻んできた下瞼が引き攣る。彼は迷いを振り払った。結局はいつだって、この銃が恐れに勝ってきたのだから。
「撃て!」
押し殺した一声を合図に、兵士たちの構える銃が一斉に火を吹いた。
ぬば玉の闇に沈んだ砂丘の一点が瞬間、太陽のように明るくなる。
銃声は耳を聾するばかりに続いた。跳弾の懸念もありうる至近距離で、三十丁あまりの口から弾丸が炸裂する。
五秒、十秒、隊長は「撃ち方やめ!」とは言わなかった。脂汗をにじませた瞼を見開き、彼は銃撃の向こうにあるはずのものを探す。
銃声の終わりは唐突に訪れた。
「テントの向こうだ!」
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