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振り返った兵士全員が、トカゲの尾を思わせる素早さでテントの陰へ滑り込む青いローブの裾を捉える。
掃射の先は滑らかにテントへと切り替わった。年季の入ったボロ布が自動小銃の連射を防げるはずもなく、見る見るうちに夜気の中へ舞い上がる穴だらけの切れ端と化していく。布切れがさらに細かに撃ち裂かれる背後で、小さな血煙が上がった。
「撃ち続けろ!」
やったぞ、と叫びかけた兵士に重ねるように隊長が怒鳴る。
だが、カチ、カチと弾切れの気の抜けた音が連続したのもほとんど同時だった。空のライターに火を点そうとするように、蒼ざめた空気の中でその音は虚しく響く――。
ちっ、とかすかな舌打ちの音が、空振る銃倉に相槌を打った。
「野郎、またしても裏切りやがった!」
聞きなれない罵り声とともに、ひしゃげたテントの陰からローブ姿が飛び出した。
素早い側転の軌跡を、赤い血の筋が描き出す。男は身を屈めて地面を蹴り、リロードの間に合わなかった一人の肩に飛び乗った。
「構うな、撃て!」
兵士たちに躊躇う間を与えなかったのは偶然か、あるいは慈悲か。隊長の命令より早く、男は両足で兵士の首を挟み、体重をかけて真後ろにひねった。
くずおれる兵士の上で、曲がりくねったナイフが二振り、月明かりを跳ね返して不吉に光る。その光がまた屈折し、殺人者の笑みを白々と照らし出す。
特殊部隊は銃撃を再開した。もうどちらにも迷いはない。
男はひねりをつけた体の勢いで二度三度バック転し、次の兵士の両目にナイフを突き立てた。スキー板のように平行に刃を構え、仰向いた三人目の喉、後じさりした四人目の口を切り裂く。
男が跳ねるたびに血飛沫の中で古風な衣装を纏った体が弓なりに反り、重力に従って落ちるたびに兵士が一人ずつ倒れる。卓球のボールを思わせる軽やかさで兵士たちの間を縫い、跳ね返り、長くたなびくローブが眼前を覆う。
十二人目の胸を蹴飛ばして着地した時、男の足がわずかにもつれた。まだ望みを捨てていなかった隊長が反射的に叫ぶ。
「怯むな、今だ!」
地面に膝をついた男を一斉掃射が出迎えた。
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