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綾は、不格好に階を転がり落ちた。
帳場にいたのであろうハナエの飛び上がるような声が谺(こだま)した。
「……綾ッッ!?」
綾は板の廊下に弱々しく横たわり、はげしくぶつけたのであろう腕を抱えるようにして丸まっていた。
その姿は腹をかばっているようにも見え、都季は高いところから冷ややかにそれを見下ろしていた。
「綾! 大丈夫かい! 綾!!」
ハナエが綾に走り寄った。
派手な音を聞きつけた部屋付きらの集まる足音が響き、「医者を読んでこい」と指示する家母の声が上がった。
ふと、ハナエが階を見上げた。
綾が呻き声を上げた故、意識はあると安心した上で、静かに存在する人の気配を確かめたのだと思われた。
「都季……?」
ハナエの眉間には、くっきりと皺が浮かんでいた。
思うに、ハナエは都季を疑ったのだ。
都季が綾を突き落としたのだと認めたくない目であった。
つまり、ハナエは都季ならばやりかねぬと心の底で思っていることになる。
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