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「とにかく……。診察いたしますので、お二方は出てください」
白英宗が襖に手をやると、セツが先に廊下に出て、ハナエはその後に続いた。
ハナエは「お願いします」と忘れずに告げて部屋を出たが、それが胎児を救ってくれという意であるならば、裏切らねばならない。
襖を閉めると、綾がおぼろに眼瞼を上げた。
「先生……」
「起きていたのですか。気分はどうですか?」
ハナエから、頭は打っていなさそうだと聞いている。おそらく全身の打撲程度で、重傷ではない。
綾は、天井を見つめて答えた。
「気分がよいとは言えません。私は突き落とされたのです」
「突き落とされた? 誰に、ですか」
白英宗は褥の傍らに膝を降ろし、綾の細い腕をとって脈診した。
一息四脈(いっそくしみゃく)である。
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