第37話

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人はいかなる状況下でも、健康であれば一呼吸に対し四つ脈を打つのだ。 心拍が早くなれば呼吸数も増える故、これは全力で駆けた後であろうと一息四脈を保っている。 故に、高熱など苦しげな不調時でも一息四脈を維持していれば、本人が蘇生する力を持っていると見ることが出来るのだ。 やはり大事はないと思いつつ腕を降ろすと、綾が唇を重そうに開いた。 「都季です」 一瞬、直前に何の話をしていたか思い出せなかった。 「え?」 「都季が、私を突き落としたのです」 綾は、憎悪のひそんだ目を潤わせた。 かたく結ばれた唇が、わなないている。 それはおそらく事実であろうと思ったが、直ぐに頷くのは気が引けた。 「まさか」 「私が偽りを述べているとお思いですか。都季は紹長官様をお慕いしているのです。故に、私を妬んだのだわ。胎児を流そうとしたのよ。もし、まことに身籠っていたらと思うと……」 「綾」
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