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「旦那様。劉家の姫様がお見えになっておられますが」
正殿で持ちかえった執務をこなしていた斎は、下女の紫音の声で筆を置いた。
劉家は、かつて栄華を極めた貴族であったらしいが、三世代前に養子が後継してからは財産を食い潰し、今は没落した名ばかりの貴族である。
劉家の誇りは「没落したが血筋はよいのだ」「貧しくとも心まで貧しくはならぬ」だ。庶民の血を交ぜるわけにはゆかぬと、あくまで貴族同士の縁談を組もうとする。
姫はこれまで自身の美貌を利用してきたのであろう。しかし良縁に恵まれなんだらしく、さるほどに知り合いを伝いに伝って斎と出会った。
斎の如く高官ともなれば、姫の求愛は美貌を見せびらかすばかりに留まらず、寝所に侍り、たやすく股をひらく。
自称、血筋のよい姫が、あたかも娼妓の如く、閨でよがり乱れるのだ。
これを誇りだと申すなら失笑ものである。
彼女らの心は庶民より貧しい。
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