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「斎様……。やはりお休みではなかったのですね」
劉家の姫である。
整った顔だちが怒りに歪んでいる。
姫は、不慣れな上布の裾に足を取られそうになりつつ、斎の目前に腰を落とした。
「何故、嘘をついて私を遠ざけようとするのですか!」
これまで姫は、かように大声を張ったことなどない。斎を虜にする自信があったのであろう。
たかが二三度、閨をともにしたくらいで、姫は斎の行動をすべて知りたがり、しかも斎が離れてゆかぬと信じている。
「客人が滞在しているのだ。門前払いしたのは、そなたばかりではない。商人とて、ごく一部の者しか出入りさせておらぬ」
「商人と私を同一視されるのですか!」
「さような意ではない。大切な客人が滞在しているということだ」
「大切な客人とはどなたですか! 私と会えぬほどの方だと仰るのですか!」
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