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「何をしにいらっしゃったのですか。見つかっては危険です。早くお帰りください」
小声で口早にまくし立てた彼女は、斎に告げるつもりはないどころか、令雲を案じるていである。
「あなたは……?」
「私は紫音と言います。令雲様はお忘れでしょうが、私が領議様のお屋敷に届け物を持して伺った際、それを受け取りに出てこられたのが令雲様です。下人ならば顔を知らぬとお考えになったのでしょうが――」
令雲は手をかざして、口を閉じよという意思を伝えた。
まったくもってそのとおりの説教が耳に痛いのと同時に、ここに長居するつもりはなかったからである。
紫音は途中で遮られた言葉をむりやり飲み込むと、喉がつかえたように眉を曇らせた。
「私を案じてくれるあなたには、まことに頼みづらいのだが、シノを呼んでくれないか」
「それは出来ません」
「頼む」
「出来ません」
頑なな拒否であった。
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