第37話

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「何をしにいらっしゃったのですか。見つかっては危険です。早くお帰りください」 小声で口早にまくし立てた彼女は、斎に告げるつもりはないどころか、令雲を案じるていである。 「あなたは……?」 「私は紫音と言います。令雲様はお忘れでしょうが、私が領議様のお屋敷に届け物を持して伺った際、それを受け取りに出てこられたのが令雲様です。下人ならば顔を知らぬとお考えになったのでしょうが――」 令雲は手をかざして、口を閉じよという意思を伝えた。 まったくもってそのとおりの説教が耳に痛いのと同時に、ここに長居するつもりはなかったからである。 紫音は途中で遮られた言葉をむりやり飲み込むと、喉がつかえたように眉を曇らせた。 「私を案じてくれるあなたには、まことに頼みづらいのだが、シノを呼んでくれないか」 「それは出来ません」 「頼む」 「出来ません」 頑なな拒否であった。
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