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長官職を世襲することはなさそうだと思っていた故、かように立派な屋敷を普請したものの笑われぬであろうかと令雲は案じていたのだが、副長官ともなれば見劣りする屋敷こそ恥である。この屋敷は、蘇進にふさわしい。
「令雲。領議は未だ斎副長官の屋敷に潜伏していたか?」
蘇進は、龍の銀刺繍が施された官服の袂を、ただの常着の如く足ではらって上座に胡座した。
高官の証である龍の銀刺繍は、下官の羨望の的とも言え、おそらく昇進したばかりの高官には、この官服がいとしく丁重に扱うと思われるのだが、およそ権力に興味がないと見える蘇進は、それに馴染んだ古参の如く、官服に気を遣う気配はない。
そのていが又、大物だと述べる者もいれば、ただのうつけだと述べる者もいる。
令雲には、どちらか判っている。
「申し訳ございません。思いのほか警備が厳重で、下女との接触、相成りませんでした」
「何?」
蘇進が怒りに似た声を発した。
令雲は、いま一度こうべを垂れた。
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