第1章 ~新月~

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1、三日月~yuzuki~ (1)始まりの予感  昔、見た月も、あんな形だったような気がする――。  森下柚月(もりした ゆずき)は仕事を一段落させると、チェアに背をもたらせてオフィスから見える空を眺めた。  そうだ、とデスクの隅に置いてある卓上カレンダーへ視線を移す。  カレンダーには月の満ち欠けを示した月齢のイラストが日ごとに描かれている。  柚月は今日の日付の下に描かれている三日月に微笑んだ。  これから、満ちていく月……始まりの予感がする。  柚月はさっそくそこへボールペンで丸をつけた。実は、これは柚月の昔からのクセのような行動である。  そこへ課長の蓮見陽祐 《はすみ ようすけ》から「森下」と声をかけられ、ハッと我に返った。 「はい」 「今日かなり遅くなって悪いんだけど、もう少し残って手伝えるか? 明日の現場下見の前に、チェックしたい個所があるんだ」
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