樫の木と

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おじいちゃんが大好きだった。 おじいちゃんと言っても、私が生まれる前に亡くなった祖父の兄、大伯父にあたる。 彼は、若いころ妻に先立たれ、その後生涯独身だった。 本当の孫のようにかわいがってくれていたし、私も本当のおじいちゃんだと思っていた。 穏やかな空気をまとっていた人だった。 彼が笑うと、陽だまりの中にいるような、温かさに包まれる。 寡黙ではあったが、時折こぼす声は、静かな波の音にも聞こえた。 小学校高学年の頃、学校が終わると、おじいちゃんの家に遊びに行っていた。 当時の私は、クラスに友達がいなくて、寂しい思いをしていたからだ。 遊びに行くと、おじいちゃんはいつも縁側で、静かに本を読んでいた。 庭にある、大きな樫の木からもれる木洩れ日の中。 時折吹く風に、樫の木の葉のざわめきを聞いているようだった。 そんな彼を邪魔しては悪いと思い、静かに隣に腰を下ろす。 それに気づいた彼は、ふっと柔らかい笑みをこぼすと、優しく大きな掌で、私の頭を撫でてくれた。 「おじいちゃん、今日は、何の本を読んでるの?」 「今日はね、夏目漱石かな」 「吾輩は猫である、を書いた人」 「そうだね。よく知ってるね」 「国語の授業で習ったもん」 「そうだ、音楽をかけてくれないか」 「はぁい」 私は、持ってきていた音楽プレイヤーを、居間にあるスピーカーに繋げた。 画面をタップして、プレイリストからクラッシックを選択する。 流れてきたのは、バーバー作曲の「アダージョ」
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