21人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
どこか悲しく、忍び泣いているような弦楽の旋律が響く。
「この曲、妻が好きだったんだよなぁ…」
おじいちゃんが、ぽろりと言葉をこぼした。
私は、それを手のひらで受け止める。
「おじいちゃんの奥さんって、どんな人だったの?」
「そうだなぁ…」
彼は、庭の樫の木を見上げた。
その瞳は、涙ぐんでいるようにも見えた。
小鳥がどこからか飛んできて、樫の木にとまり、チチチと鳴く。
「かわいい人だったよ」
と一言。
風が吹く。
土の匂いと、緑の匂いが、穏やかな太陽の光に、ふんわりと溶け込んだ。
「かわいい?どんな風に?」
「ちょっとしたことでも、大げさなぐらい喜んだり、悲しんでいる人がいたら、すぐもらい泣きしたり、恥ずかしがり屋で、気持をうまく伝えられなかったり」
「へぇー。おじいちゃん、大好きだっだんだね」
「ああ、今でも、大好きだよ」
穏やかに笑うおじいちゃんは、照れているようにも見えた。
きっと素敵な夫婦だったのだろうな。
私も、将来は、おじいちゃんのような人と結婚をしたいな。
そんな風に思いながら、樫の木を見上げた。
木洩れ日がきらきらと、おじいちゃんと私を照らした。
最初のコメントを投稿しよう!