樫の木と

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どこか悲しく、忍び泣いているような弦楽の旋律が響く。 「この曲、妻が好きだったんだよなぁ…」 おじいちゃんが、ぽろりと言葉をこぼした。 私は、それを手のひらで受け止める。 「おじいちゃんの奥さんって、どんな人だったの?」 「そうだなぁ…」 彼は、庭の樫の木を見上げた。 その瞳は、涙ぐんでいるようにも見えた。 小鳥がどこからか飛んできて、樫の木にとまり、チチチと鳴く。 「かわいい人だったよ」 と一言。 風が吹く。 土の匂いと、緑の匂いが、穏やかな太陽の光に、ふんわりと溶け込んだ。 「かわいい?どんな風に?」 「ちょっとしたことでも、大げさなぐらい喜んだり、悲しんでいる人がいたら、すぐもらい泣きしたり、恥ずかしがり屋で、気持をうまく伝えられなかったり」 「へぇー。おじいちゃん、大好きだっだんだね」 「ああ、今でも、大好きだよ」 穏やかに笑うおじいちゃんは、照れているようにも見えた。 きっと素敵な夫婦だったのだろうな。 私も、将来は、おじいちゃんのような人と結婚をしたいな。 そんな風に思いながら、樫の木を見上げた。 木洩れ日がきらきらと、おじいちゃんと私を照らした。
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